サラリーマンの方で副業として個人で不動産を購入したり、親から相続した不動産を有効活用して家賃収入を得たい若しくは得ている方、一体どのくらいの税金が掛かるのか知っていますか。
不動産を所有していることによって生じる家賃収入に掛かる所得税や住民税などは、サラリーマンの給与とは違い天引きとはなりません。自分で税金を計算し、納税までしなくてはなりません。
前もって知っておかなければ、家賃収入は入ってきたが固定資産税や所得税、住民税など思いもよらない税金の負担増に「こんなはずでは…」となる場合もあるのです。
そんな時には「どうにか少しでも節税できないか」と考えるのではないでしょうか。
よく「もうかりすぎたら法人化すると節税になる」なんて話を聞いたことはありませんか。しかし、法人化することで発生するデメリットもあります。
今回は、不動産の事業を法人化した場合や不動産管理会社を設立した場合などのメリット・デメリットをケーススタディで紹介していきたいと思います。
目次
Ⅰ 不動産の所有や家賃収入にかかる税金の種類
まずは、どのような税金が掛かるかを見てみましょう
1.不動産を所有することによってかかる税金
1-1 固定資産税・都市計画税
毎年1月1日に所有する所有者に対して市町村(東京23区内は都)が課税する税金です。
税率は課税標準(土地や建物の評価額つまり価値)に対して固定資産税1.4%、都市計画税0.3%(合計1.7%)がかかります。
毎年4月、7月、12月、2月に合わせて不動産がある市町村(東京23区内は都)に納税します。※固定資産税の納税通知書は4月頃に届きます。
2.不動産を所有し家賃収入を得ることによってかかる税金
2-1 所得税
不動産を所有し親族若しくは第三者に賃貸することによって受け取る家賃と掛かった経費を差し引いた利益(所得)に対してかかる税金です
決算書の作成の計算過程としては、年収等の『収入金額等』を計算します。次に申告書の作成として『所得金額』を計算します。そのあと個人ごとで異なりますが社会保険や医者に掛かることによってかかった医療費、生命保険など支払った経費等の『所得から差し引かれる金額』を差し引いて『課税される所得』(この数字に税率をかけます)を計算して納税額を算出します。
では計算過程で出てくる所得とは何かを先に見て、所得税率を確認したいと思います。
ちなみに納税先は国になります。具体的にはお住まい(若しくは居所)の税務署です
2-1-1 給与所得とは
給与所得とは年収から給与所得控除額といって決められた金額を差し引いた後の金額を給与所得と言います。以下の表に従って年収から給与所得控除額を計算して給与所得を求めます。
- 平成29年分給与所得控除額計算表
給与等の収入金額 |
給与所得控除額 |
|
|
1,800,000円以下 |
収入金額×40% |
|
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1,800,000円超 |
3,600,000円以下 |
収入金額×30%+180,000円 |
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3,600,000円超 |
6,600,000円以下 |
収入金額×20%+540,000円 |
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6,600,000円超 |
10,000,000円以下 |
収入金額×10%+1,200,000円 |
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10,000,000円超 |
2,200,000円(上限) |
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引用 国税庁ホームページ
2-1-2 不動産所得とは
不動産収入(家賃収入)から必要経費(建物や土地の固定資産税など)を差し引いてさらに青色申告で得られる特典青色申告控除額の65万か10万を差し引いて出た差額が不動産所得になります。65万か10万の控除を受けれるかの要件は個人事業として持っている不動産の規模により異なります。今回は不動産を法人化するメリット・デメリットなので青色申告控除の細かい要件については割愛させて頂きます
2-1-3 所得税計算
最後に所得から社会保険料や医療費、基礎控除を差し引いて課税所得(この数字に税率をかけます)を計算したら以下の所得税の税率表に当てはめて納税額を計算して終了になります。
・所得税の税率表
課税される所得金額(千円未満切捨て) |
税率 |
控除額 |
195万円以下 |
5% |
0円 |
195万円を超え 330万円以下 |
10% |
97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 |
20% |
427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 |
23% |
636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 |
33% |
1,536,000円 |
1,800万円を超え 4,000万円以下 |
40% |
2,796,000円 |
4,000万円超 |
45% |
4,796,000円 |
2-2 住民税
受け取る家賃と掛かった経費を差し引いた利益(所得)に対してかかる税金です。
但し所得税と住民税の利益(所得)の計算の仕方は多少違います。例えば所得税の基礎控除38万は住民税の計算上は33万になります。生命保険料を支払うと所得税でも住民税でも所得控除を受けれますが、以下の表のように控除限度額にも違いがあります。
※基礎控除とは、個人ごとに一律38万引くことができます。
■生命保険料控除 所得税の控除計算式
年間正味払込保険料 |
控除される金額 |
20,000円以下 |
全額 |
20,000円超 40,000円以下 |
(年間正味払込保険料×1/2)+10,000円 |
40,000円超 80,000円以下 |
(年間正味払込保険料×1/4)+20,000円 |
80,000円超 |
一律 40,000円 |
- ※所得税の合計適用限度額は12万円です。
- ■生命保険料控除 住民税の控除計算式
年間正味払込保険料 |
控除される金額 |
12,000円以下 |
全額 |
12,000円超 32,000円以下 |
(年間正味払込保険料×1/2)+6,000円 |
32,000円超 56,000円以下 |
(年間正味払込保険料×1/4)+14,000円 |
56,000円超 |
一律 28,000円 |
- ※住民税の合計適用限度額は7万円です。納税先は市町村(東京23区内は都)になります。固定資産税・都市計画税・所得税・住民税が不動産を所有することによってかかる税金です
- 税率は市町村(東京23区内は都)によって若干異なりますが、おおむね所得の10%が税金となっています
Ⅱ 不動産を法人で管理するケースと不動産管理会社を設立するメリット・デメリット
今回は所有している不動産の家賃収入があり、税金の支払いが予想していた額より多かったと思っている方が節税対策の為に法人を設立した場合のケースをみてみましょう。
ケースA
Aさん 50歳 男性
職業: 会社員
現況: Aさんが49歳の時に父が死亡。父から駐車場、土地等の不動産を多数相続して一年。確定申告をした際に思っていたよりも多額の税金を支払った
悩み: 支払う税金は少なくならないのか。
相談: 法人化すれば税金の負担は少なくなるのか。法人化することでのメリット・デメリットを知りたい。
上記の事例から法人化することでのメリット・デメリットをあげてみました
Aさん自身が法人を設立し、その経営者(代表取締役に就任)になった場合
メリット
①.家賃収入の所得分散が可能となる。
役員報酬で自分の家族などへ給与支払ができる。
※役員であれば原則何人でも可能だが、定期同額給与と言って毎月一定の時期に毎月同じ金額を支払うことで経費として認められる役員への給与のことである
②.法人から役員報酬として受け取ることにより、給与所得控除額(最大220万の控除が受けられる)の使用が可能となる。
※平成29年度改正
③.法人に損失が発生した場合には、欠損金の繰越が9年間可能となる。
※欠損金の繰越とは[売上-費用]が、マイナス(損失)になってしまった場合に、そのマイナス(損失)を将来にわたって繰越すことができます。法人は赤字の場合には、均等割りの法人県民税・法人市民税の最低税額20,000円と50,000円(地域によって多少ことなる)の合計70,000円の負担のみで済みます。(いずれも資本金が1,000万以下の場合に限る)
④.生命保険に法人で加入すれば、保険料全額を経費(損金)として計上できる。積立タイプなどは1/2までを経費(損金)として計上できる。
※個人の場合は、保険料の一部が生命保険料控除をできるにとどまる。
年間生命保険料控除は、一般生命保険料、個人年金保険料、介護医療保険料それぞれ40,000円以内となっており、合計で最大控除額120,000円までとなります。
⑤.借入金利息を全て経費とすることができる(損失として繰越可能)。
※個人の不動産所得の場合、不動産所得が赤字だと土地に関する借入金利息は、経費になりません
⑥.利益(所得)が多く出た場合、所得税より法人税の方が税率は低い。
所得税率5%~45%(最高)
法人税実効税率 37.04%
中小法人※注 軽減税率15%
※注)普通法人のうち期末資本(出資金)の額等が1億円以下であるもの又は資本等を有しないものをいい、資本金の額等が5億円以上である法人等との間にその法人等による完全支配関係がある法人を除きます。
デメリット
①.会社設立費用などの初期費用がかかる。
※会社設立費用は株式会社で登録免許税150,000円、定款認証手数料で52,000円は最低かかります。
また所有権移転に伴い、不動産取得税等がかかる。
土地・建物の税額=固定資産税評価額×3%
住宅・土地について平成33年3月31日まで
住宅以外の家屋 4%
②.不動産を法人で買い取るための資金が必要となる。
③.法人に不動産を売却した際、個人に譲渡所得税がかかる可能性がある。
④.税理士報酬や法人住民税の均等割りなど、法人の維持管理コストや手間が発生する。
⑤.社会保険への強制加入が必要になる。
※(厚生年金に加入でき将来的にもらえる年金は増えるといった意味ではメリットですが、所定続きや勤務している会社の社会保険との兼ね合いもあり手間や支出が増えるので今回はデメリットにしておきます)
以上が法人を設立し、個人所有の不動産を法人に売却した場合(俗にいう不動産保有会社方式)の主だったケースのメリット・デメリットです。つまり。法人を設立すれば法人税率と所得税率の差によって節税になりそうですし、他にも得られるメリットは多そうです。ただし、目先の節税だけに目を向けず収支のことや、手間など他にも発生するデメリットのことも含めて考えたほうが良いでしょう。
次にもう一つのケース自らが不動産管理会社を設立して、管理を行い、管理料をもらった場合(不動産管理会社方式)の「管理委託方式」と「一括借り上げ方式」についてのメリット・デメリットにも簡単に触れておきたいと思います。
ケースB 「管理委託方式」
不動産オーナーが不動産管理会社にその物件の管理を委託する方法
メリット
・委任契約をするだけなので簡単に導入できる。
・個人から法人へ不動産の譲渡などすることがなく譲渡所得の課税関係は生じない
デメリット
・管理料を高く設定できない。5%~10%
・空室リスクは個人が追うので集金代行や契約更改などの通常の管理程度だと管理料は高く設定できない
ケースC 「一括借り上げ方式」
不動産オーナーが不動産管理会社に一括で貸し付け、会社がその空室リスクを負う方式
メリット
・管理委託方式よりも管理料を高く設定できる(15%程)
※空室リスクを法人が背負う為
デメリット
・借家人との契約変更など事務手続きが煩雑になる
Ⅲ.まとめ
いかがでしょうか。不動産を個人で所有するか、法人で所有するかはなかなか判断が難しいことです。利益(所得)が低い場合にはあまり問題にはなりませんが、利益(所得)が高く出た場合は法人成り(法人化)を検討しても良いかもしれませんね。良く目安としていくらぐらいの利益(所得)が出たら法人化をした方がいいかと尋ねられますが、やはりケースによって異なります。判断は難しいので法人を作ってしまう前に、税金と収支のシミュレーションを含めてお近くの税理士に相談することをお勧めします。