大きく変わった「債権の消滅時効」売掛金は大丈夫?

令和2年4月1日施行の民法(債権法)改正により債権の消滅時効が大きく変わりました。これまで職業の種類によって異なっていた民法の短期消滅時効の制度が廃止されました。あわせて、商法の消滅時効の規定が削除され、債権の消滅時効は民法に一本化されました。今回は、主に売掛金の時効について書いてみました。

1.改正民法の消滅時効

まずは、債権の消滅時効の変化を確認しましょう。短期消滅時効の廃止や商法522条を削除し、次のように統一することとなりました。

 改正民法(債権等の消滅時効)

  1. 債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間
  2. 債権者が権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間

 いずれか早いほうが経過した時に請求する権利が時効により消滅する。

次の図は、廃止となる主なものについてです。

権利を行使することができることを知った時(契約による支払期日等)から、消滅時効は5年間と考えます。個人間の債権については10年から5年と期間が短くなりました。一方、商品等の売買代金である売掛金は、これまで2年間だったのが5年間と期間が長くなっています。

2.改正民法の消滅時効の適用

改正民法は、施行日(令和2年4月1日)以降に生じた債権について適用されます。施行日前に債権が生じた場合、または、債権発生の原因である法律行為(契約等)がされた場合は、改正前の民法が適用されます。売掛金の時効は2年から5年となったのですが、施行日前に発生した売掛金の時効は2年です!

当面の間は、短期消滅時効の適用が続く債権がある事に注意してください。

3.時効の完成猶予と更新

進行していた時効期間の完成を遅らせることを「時効の完成猶予」、振出に戻すことを「時効更新」といいます。

時効期間が近づいて満了となる可能性がある場合には次のような方法で、時効の完成猶予や時効更新をする必要があります。

A)債務者に債務の承認をさせる。

 承認(改正法152条)とは、債務者が、債権者に対しその権利が存在することを知っている旨を表示すること。

改正民法では権利の承認があった時は、時効が更新され、その時から新たに時効期間が進行します。代表的なものに「債務の一部弁済」が有ります。

実務上は、口頭で確認するだけではなく、債務者から債務承認書を受け取っておくと安心です。

B)法的手続きを行う

 裁判上の請求等(改正法147条①②)は、債務者が任意に債務を承認しないとき必要となります。

返済しない相手に対し裁判を提起することで、裁判手続の間、時効の完成が猶予され、裁判確定で新たに時効期間が進行します。

C)催告をする。

 催告(改正法150条)とは、相手に対して一定の行為(債務者に対して債務の履行を請求する等)を要求すること。

内容証明郵便などで催告書を送付する方法が一般的です。改正民法では催告があった時から6か月を経過するまでの間、時効の完成が猶予されます 

時効期間の満了が目前だが、それまでに裁判を起こせるか分からないといった場合には、とりあえずこの催告書だけでも出しておけば6ヶ月間、時効完成を猶予することができます。

 ただし、「催告によって時効の完成が猶予されている間に再度催告を行っても時効の完成は猶予されない」とされていますので、繰り返し内容証明郵便を送ってもさらなる延長は有りません。

A~Cを図にすると次のようになります。

D)協議を行う旨の合意による時効の完成猶予

 契約当事者間で話し合いにより問題の解決を進めている間は、時効の完成を猶予できるよう導入された制度です。

改正民法で新設されたもので、書面又は電磁的記録(eメール)により当事者間において権利についての「『協議を行う旨』の合意」がなされた場合には、時効の完成が猶予されることとなります。

◆猶予される期間は、次に掲げる時のいずれか早い時までです。

  1. 合意時から1年経過時
  2. 合意において1年未満の協議期間を定めた場合は、その期間の経過時
  3. 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6か月を経過した時

協議を行う旨の合意により時効の完成が猶予されている間に、再度の合意がなされれば、その合意の時点からさらに猶予されますが、本来の時効が完成すべき時から通算して5年を超えることは出来ません。

間違えてはいけないのは、『協議を行う旨』の合意であるということです。もしも、債権の存在が有効であることについての合意であれば、債務者が権利を承認したということになり時効が更新(ゼロ起算)されます。

4.売掛金の管理

 時効が何年であっても、売掛金管理が出来ていなくては回収不能となり消滅する売掛金が出てきてしまいます。そのためにも取引先との契約内容(取引条件)を確認してみましょう。

  • 支払期日は、納品後の「翌月末払い」、「翌々月末払い」、「翌月○○日払い」、その他
  • 支払方法は、現金支払、振込支払、小切手支払

契約内容のとおりに売掛金が入金されているのか確認しましょう。もしも、3か月以上前の売掛金が未入金となっていた場合は先ずは自社の担当者に確認、担当者または責任者から取引先へ連絡・確認を行いましょう。売掛金の消滅を防ぐためにも、しっかりと売掛金の管理を行いましょう。

5.まとめ

 「売掛金の催促は気まずくて、つい先延ばしにしてしまいます。」などといっていると大切な権利を失ってしまうかもしれません。経過期間が長くなるほど解決は難しくなるものです。相手先との関係を良好に保つためにも入金遅れに気づいたなら、早めに問い合わせを行うようにしましょう。