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従業員が産休を取得する際、会社は何の手続きをいつ行えばいいでしょう。また、産休に関わる手続きは、従業員自身が行う手続きもあります。従業員からの質問にも対応できるよう、産休時の会社、本人の手続きをまとめました。
産休とは
一般的に産休とは、産前休業と産後休業をまとめて「産前産後休業」をさしています。産休は労働基準法で母体の保護を目的とし、休業をとることを義務付けています。(労働基準法第65条)したがって、正社員に限らず、パート、アルバイト、派遣とどのような勤務形態の人でも、また、勤務年数の長短にかかわらず全員が「産前産後休業」を取得することができます。
産休の内容は以下の通りです。
◆対象者 全労働者 ◆内容 産前、産後の定められた期間のうち、休業した期間をさします ◆期間 産前休業:出産予定日の6週間(42日)前から出産日まで 双子以上の多胎妊娠の場合は、14週間前(98日) 前から出産日まで 産後休業:出産の日から8週間(56日)まで 従業員による申請と、医師の許可がある場合は、産後6週間より労働を認めることができます。 ※出産とは、妊娠4か月(85日)以降の分娩をいい、出産、早産、死産、流産、人工中絶を含みます。 |
労働基準法により、産後6週間の休業は従業員の請求の有無に関わらず、休業をさせなければなりません。また、産後6週間~8週間は本人の就業希望と、医師の許可がある場合のみ、就業をさせることができます。一方、産前休業は、強制ではありませんが、従業員より休業の請求があった場合、断ることはできません。産前産後休業の取得は法律により、取得することが認められており、それを理由に解雇をすることはできません。
産休時に会社で行う手続き
従業員が産休を取得する際に、社会保険に関する手続きは、会社で行う必要があります。
社会保険料免除にかかわる手続き
産前産後休業取得者申出書
■ 概要
この手続きにより、会社、被保険者ともに、休業中の保険料が免除されます。
この手続きは、休業中の保険料が免除されますが、被保険者としての資格は継続され、厚生年金を支払った期間と同じ様に年金額に反映されます。会社の負担軽減のみではなく、休業する従業員にとっても大切な手続きとなりますので、忘れずに行ってください。
保険料の免除期間は、「産前産後休業開始月から終了予定日の翌日の属する月の前月(産前産後休業終了日が月の末日の場合は産前産後休業終了月)まで」です。(日本年金機構)
保険料免除期間について、例を見てみましょう。
例1)出産予定日が、7月7日(出産日)の場合
・産前休業5月27日~7月7日、産後休業7月8日~9月1日となります。
・その際の保険料免除期間は、5月1日~8月31日です。
例2)産休終了日が、月末日の場合
・産休終了日が8月31日の場合、8月31日までが免除期間
■ 手続きの流れ・方法
従業員 → (産休の取得の申し出) → 事業主 →(届出)→ 日本年金機構
届出 |
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提出先 |
(日本年金機構) 事業所を管轄する年金事務所、又は、事務センター |
提出方法 |
窓口、郵送での提出、または、電子申請 |
提出時期 |
産前~産後休業中。 ※産後休業中に手続きを行うと、もっとも手間が少なくすみます。 |
時効 |
2年 事業主の失念等により、提出が遅くなった場合は、保険料の遡及期間と同じく、2年間は申請することが可能です。しかし、賃金台帳や遅滞報告書などと一緒に提出する必要があります。 |
産前産後休業の期間が変更となった時の手続き
■ 概要
出産前に「産前産後休業取得者申出書」を提出した場合に、休業期間に変更があった場合に行う手続きです。出産前の手続きでは、出産予定日により、産休産後休業の日程を決めていますが、実際の出産が予定日より前後した場合は、確定した日付で提出する必要があります。
■ 手続きの流れ・方法
届出 |
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提出先 |
(日本年金機構) 事業所を管轄する年金事務所、又は、事務センター |
提出方法 |
窓口、郵送での提出、または、電子申請 |
提出時期 |
産前産後休業期間に変更があったとき |
時効 |
2年 |
産前産後休業の手続きは、休業日を明確にする必要があります。そのため、社会保険加入者で、産前産後休業を取得する場合は、休業する従業員に手続きがあること、生まれたら、出産日を会社に連絡をしてもらいたい旨を伝えておきましょう。
社会保険料改定にかかる手続き
■ 概要
産休が終了し復職した際、勤務時間を短縮するなど、休業前と給与が変更となる場合があるかと思います。社会保険料は、給与等の報酬により50の等級に分けられています。通常は2等級以上の変更がある場合に社会保険料の変更手続きを行いますが、産休取得後は、1等級の変更でも社会保険料の変更手続きを行います。
■ 手続きの流れ・方法
届出 |
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提出先 |
事業所を管轄する年金事務所、又は、事務センター |
提出方法 |
窓口、郵送での提出、または、電子申請 |
提出時期 |
産休終了後、4か月目以降から変更可能。変更が生じた場合、速やかに。 |
社会保険料の変更は、「産前産後休業終了日の翌日が属する月以後3カ月間に受けた報酬の平均額」に基づいて4か月目から改定することが出来ます。
① 報酬の平均額「標準報酬月額」を確認する
・連続する3ヵ月の報酬(給与、手当、通勤費等を含む額)の平均月額を算出します。
・平均を求める月は、17日以上1)ただし、500人以上の被保険者を含む「特定事業所」に勤務する短時間労働者は、11日以上の出勤を有する月が計算の対象となります。の出勤をしている月に限られます。
② 「産前産後休業終了時報酬月額変更届」の作成、提出
・①で確認した、標準報酬月をもとに、社会保険の等級を確認します。
・1等級以上の変化があった場合、届出の作成、提出をします。
社会保険料は、各都道府県により異なります。そのため、等級を確認する際は、事業所のある都道府県の「健康保険料額」を参照してください。
※ 産休終了後、翌日から育児休業に入る場合は、育児休業終了後に手続きとなります。
例) 報酬の平均額「標準報酬月額」の確認
・産休前の給与300,000円(通勤費、残業代等の手当含む)<22等級>
・産休 8月15日まで、出勤8月16日から
・8月出勤日数10日 報酬130,000円(通勤費、手当含む)
・9月出勤日数20日 報酬260,000円
・10月出勤日数20日 報酬240, 000円
・11月出勤日数20日 報酬280,000円
産休終了後の出勤日数をみると、月17日以上出勤している9月、10月、11月が報酬の平均を算出する月となります。3か月分の報酬を加算し、3で割ると、標準報酬月額は260,000円となります。
社会保険の表より、等級を確認すると、260,000円では、<20等級>となります。22等級から20等級へと1つ以上の等級の変化があったため、届出の提出を行います。
出産に関わる従業員が行う手続き
出産に関わる手続きは、会社が行う手続きだけではありません。社会保険、特に健康保険に関わる手続きは、従業員から質問されることも多いかと思います。会社としても、従業員が安心して休業に入れるよう、出産に関わる各種手続きの概要と手続き方法を確認しておきましょう。
出産育児一時金、家族出産育児一時金に関わる手続き
■ 概要
出産に伴う様々な費用負担の軽減を目的として、各健康保険組合等から、1児につき、42万円が支給されます。(産科医療保障制度に加入していない医療機関での出産の場合は、40.4万円の支給となります。)社会保険の被保険者・被扶養者、国民健康保険の被保険者と出産する人全員が対象となります。
出産育児一時金、家族出産育児一時金は、出産に関わる医療費の負担の軽減を目的としているため、この一時金を直接医療機関が受け取り医療費と精算できる制度A.直接支払制度、B.受取代理人制度があります。
■ 手続きの流れ・方法
手続する人 |
被保険者 |
管轄 |
健康保険組合等 |
手続き先 |
医療機関にて手続き(協会健保への申請はなし |
手続き時期 |
医療機関による。出産予定日の1ヶ月前程度が多い |
■ 支給額
・1児につき、42万円が支給されます。
※ただし、産科医療保障制度に加入していない医療機関での出産の場合は、40.4万円の支給となります。
・双子以上の出産の場合は、胎児の人数分の支給となり、双子の場合は2人分の支給、(42万円×2人分=84万円)となります。
◆ 制度の種類
A.直接支払制度
B.受取代理人制度
A、Bの制度とも、医療機関が保険協会等へ医療費の請求を行います。多くの病院は、Aの制度を利用しており、年間の平均分娩数が少ない一部の小規模な医療機関は、Bの制度を使用しているところもあります。どちらの制度を利用しているかは、医療機関へご確認ください。
A. 直接支払制度
・手続き:病院にて「直接支払制度の利用に合意する文書」作成
※医療費が42万円以下の場合、差額が請求により支払われます。
医療機関への支払いが終わると、「支給決定通知書」が届きます。この通知前に申請する場合は、「内払金支払依頼書」、通知後に申請する場合は「差額申請書」を提出します。(全国健康保険協会「Q&A」3)
■ 退職後の直接払い制度の利用
手続きは、全国健康保険協会等が発行する「健康保険被保険者資格喪失等証明書」を医療機関等へ提示します。保険組合や全国健康保険協会に対して、被保険者ご自身で出産育児一時金を請求することも可能です。
B. 受取代理人制度
・申請時期: 事前 予定日より2か月以降
・提出先:全国健康保険協会
・届出:「健康保険出産育児一時金支給申請書(受取代理用)」記入
・添付書類:
1.医療機関等から交付される直接支払制度に係る代理契約に関する文書の写し
2.出産費用の領収・明細書の写し
3.申請書の証明欄に医師・助産婦または市区町村長の出産に関する証明を受けること2)証明が受けられない場合は、戸籍謄本、戸籍事項記載証明書、登録原票記載事項証明書、出生届受理証明書、母子健康手帳(出生届出済証明がなされているもの)などを添付してください。
まずは、医療機関で医療費を支払った上で、領収書、他添付書類を一緒に提出します。
出産手当金に関わる手続き
■ 概要
社会保険に自身で加入している被保険者の方は、「出産手当金」を受け取れます。産前産後休業中に給与の支払がない、または、少ない場合の所得補償のための給付金です。
◆ 支給の対象となる期間 : 産前42日(多胎の場合は98日)から、産後56日の範囲で給与がない期間
◆ 支給額 : 平均した給与の約「3分の2」に相当する金額
■ 手続きの流れ・方法
手続する人 |
被保険者 |
書類 |
〇各種添付書類 ・医師または助産師の意見書 ・事業主の証明 |
手続き先 |
全国健康保険協会、保険組合 など加入している保険組合 |
手続き時期
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産休中。産前休業、産後休業分と複数回に分けて申請することも可能です。ただし、事業主の証明も、書類の準備が毎回必要です。産後休業が終わってからの申請の場合、産前産後休業分の手当金の申請が一括で可能です。 |
時効 |
2年 |
申請には、医師の証明、事業主の証明が必要です。また、申請後、給付額が決定し、振り込みがされるまで、実際の出産日から考えると、3か月~半年近く後になることも少なくありません。給与がない時期の補償と考えると、早め早めの手続きがとれるよう、入院中に医師の証明をもらうことを勧めるなど、事前に概要を従業員に通知しておくことも必要かもしれません。
おわりに
いかがでしたでしょうか。出産にかかわる手続きは、ケースにより、さまざまあります。従業員が産休を取得する際、なにをしたらよいのか、会社が行う手続きと、従業員が行う手続きとをご説明しました。
引継、戻るときの対応も含め、備忘として、マニュアル等を用意しておくと、会社の業務、従業員からの質問への対応がスムーズになります。参考にしていただき、少しでも会社の手続きにお役に立てれば幸いです。
脚注
1. | ↑ | ただし、500人以上の被保険者を含む「特定事業所」に勤務する短時間労働者は、11日以上の出勤を有する月が計算の対象となります。 |
2. | ↑ | 証明が受けられない場合は、戸籍謄本、戸籍事項記載証明書、登録原票記載事項証明書、出生届受理証明書、母子健康手帳(出生届出済証明がなされているもの)などを添付してください。 |