揉めない争わない!遺言書の書き方

遺言という言葉から何を連想されますか。遺言とは死んだあとのことを連想させ何となく物悲しく避けたい話のように思いがちですが、自分が亡くなった後に法的な手段に従って自分の意志を伝える唯一の方法なのです。

相続において難しいのは、遺言書を残す側と受ける側の感情の受け止め方に差が起きること、実際の法律による判断は想像していた内容と違う場合があるということです。遺言書は意志を伝えるものですから必ず様々な思惑や感情が入ると思います。ただ手続きは民法の定める方式に従って行います。それでは遺言の残し方について学んでいきましょう。

1.遺言とは

遺言は遺言者の意思を表示、実現するための制度です。遺言書を書くことは遺言者の持つ財産の行き先を明確にすることで死後に相続争いなどのトラブルを未然に防ぐことが主たる目的です。残されたもののことを考えて遺言書を作成することを検討してみてください。なお「遺言」は一般的には「ゆいごん」、法律上にのっとった手続きにおいて「いごん」と読みます。

2.遺言書は書かなければいけないのか、書く必要性はあるのか。

遺言書を書くというのは自分の死を想像させるもので感情的に難しい部分があります。遺言書を書かない場合を見て、それでも必要あると感じたら書くという形でもいいと思います。

2-1遺言のない場合の財産相続について

遺言のない場合は、民法に従って法定相続を行います。

国税庁参考HP :https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2010/taxanswer/sozoku/4132.htm

節税の木参考記事:https://asagi-tax.com/setsuzeinoki/an-inheritance-938

民法に従って公平に相続することがかえって、不公平感を産み出す結果になる場合があり、その場合に相続争いが起き、家庭裁判所にて調停又は審判で解決してもらうことになります。

親から子供への相続の際に相続争いが起きやすいケース事例

  • 家業を継いで、苦楽を共にしている
  • 近所に住んでいて、面倒を見てもらった
  • 介護等をしてもらった
  • 兄弟が複数いる中で特定の子供に住宅購入の際の資金援助等の贈与を行っている

また、日本公証人連合会のHPのQ&Aのところに「遺言の必要性が特に強い場合とは,どのような場合ですか?」とあるように、自分は遺言書を書いたほうがいいかどうか迷ったときに参考にしてみて下さい。日本公証人連合会参考HP:http://www.koshonin.gr.jp/index2.html

節税の木の相続の記事でも書きましたが、ご夫婦の間にお子様がいない場合は書くことを強くお勧めします。

3遺言書の種類

遺言を残すうえで、法律上の効力があるものは遺言書のみです。録音テープやビデオなどは法律上の効力がありませんのでご注意下さい。遺言書は普通方式遺言と特別方式遺言があります。今回は普通方式遺言についてのみご説明いたします。(特別方式遺言については触れません)普通方式遺言の中に公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言の3つの方式が定められています。この3つの方式の中で一番効力が高いものが、公正証書遺言書となります。

 遺言書1

 3-1公正証書遺言書

作成時にお金と手間はかかりますが、遺言書を作成するならば後々のことを考えると一番お勧めしたい方法です。

・作成者

公証人が作成します。公証人役場にいる公証人が被相続人の意思の相談を受けながら遺言の内容をお伺いし、被相続人の意思に基づいて法律的にきちんと整理された内容の遺言を作成します。そのため、遺言書の内容や形式の不備で遺言が無効になる恐れが全くありません。なお体調不良など公証人役場へ向かえない場合は自宅や病院まで出張してもらえます。

・費用

公証役場手数料(16,000円~)、

証人依頼代

・証人

2人以上の証人の立会いが義務づけられています。

※証人となる承認の条件が民法上決まっております。以下の場合は証人になれませんのでご注意ください。

  1. 未成年
  2. 推定相続人、受遺者(遺言により遺贈を受ける人)
  3. 推定相続人、受遺者の配偶者、直系血族
  4. 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、従業員

・保管

公正証書遺言書は原本、正本、謄本の3種類作成されます。

  • 原本:公証役場に無料で保管。遺言者が死亡し相続が開始するまで他人に見られることはありません。
  • 正本:遺言者本人(※本人以外にも推定相続人、受遺者、遺言執行者)が保管。原本の内容を記載したもので原本と同じ効力を持ちます。内容証明となります。
  • 謄本:遺言者本人が保管。原本の写しとなります。正本と違い原本と同じ効力を持ちません。内容証明となります。

平成26年4月以降、震災等により原本や正本・謄本が滅失しても復元ができる原本の二重保存システムも構築されました。

・秘密性

公証人には法律上の守秘義務が課されており、公証人を補助する書記も職務上知り得た秘密を他に漏らさないことを宣誓して採用されているため、公証人の側から秘密が漏れる心配はありません。ただ、証人2人の立ち合いが義務付けられていますので、証人から内容が漏れる可能性があります。また手続きを踏みますので遺言書を作成したということも自然と秘密にはなりにくいものです。

・紛失の可能性

公証人役場で原本を保管していますので、謄本を再発行できます。

・変造の可能性

可能性はありません。原本が公証役場に保管されているため、破棄、偽造、隠匿、改ざんをされる心配はありません。

・検認

⇒不要

**遺言書の検認とは遺言書の発見者や保管者が家庭裁判所に遺言書を提出し、相続人の立会いのもと遺言書を開封し、記載内容を確認し、形式を確認すること。(内容については言及しない。)

検認するために家庭裁判所に手続きを取るのに約1ヶ月かかりますので、それまで内容を確認できず(勝手に開けてしまった場合、罰金となります。)形式的な確認の検認において時間がかかり、相続にも時間がかかります。

※検認手続きはその他に細かな手続きがありますので検認前にお調べください。

・メリット

  1. 家庭裁判所での検認が必要ないため相続開始後,速やかに遺言の内容を実現することができます。
  2. 公証人が作成するので、無効な遺言書となること、変造されることが少ない。
  3. 紛失しても謄本を再発行してもらえる。

・デメリット

  1. 他の方法に比べ、公証人役場への手数料や、証人依頼代等の費用がかかる。(公正証書遺言の作成費用は日本公証人連合会のHPをご参照ください。http://www.koshonin.gr.jp/index2.html

3-2自筆証書遺言書

遺言書を作成しても、内容以前に方式の不備等で無効になってしまう場合があります。なにもないよりはあった方がましですが作成・取扱いに十分な注意が必要です。

・作成者

遺言者本人が作成します。全文、自筆で作成します。(代筆やパソコンを使用すると無効になります。むろんレコーダーなども無効です。)判読しやすいよう出来る限りきれいな文字、数字で作成しましょう。

・費用

特段かかりません。

・証人

不要

・保管

基本的には遺言書作成した本人の保管が良いと思います。ただ、死亡時に遺言書を書いていることを誰も知らないと意思が反映されませんので、推定相続人、遺言執行者、受遺者、友人など信頼のおける人に存在の有無を伝えておいたほうがいいでしょう。信頼がおける人以外に伝えると破棄や改ざん等される恐れがありますのでご注意ください。

・秘密性

遺言の存在、内容共に秘密にできる

・紛失の可能性

原則、自分で保管ですので、保管場所を失念してしまう等、紛失の可能性があります。

・変造の可能性

原則、自分で保管ですので、悪意のある第三者によって変造される可能性があります。自筆の場合は、開封後に筆跡鑑定がありますが争いになる場合があります。

・検認

⇒必要

*家庭裁判所での検認手続きが必要となります。

・メリット

  1. 公証人役場に関わらないため、費用も掛からず本人のみで作成が可能です。
  2. 遺言書の存在・内容を秘密に出来、新たに作り直すことも容易です。

・デメリット

  1. 遺言書を作成する際に遺言の法律の要件を満たしていないと無効になります。
  2. 紛失や偽造、一番最後に書かれた遺言書が発見されない恐れがあります。
  3. 家庭裁判所での検認が必要となりその後、筆跡鑑定を行う可能性があるため、相続までに時間を要します。

 3-3秘密証書遺言書

・作成者

遺言者本人が作成します。自筆でも代筆でもパソコンでも書面であれば構いません。

・費用

公証役場手数料(11,000円~)

証人依頼代

・証人

2人以上の証人の立会いが義務づけられています。

※証人となる承認の条件が民法上決まっております。以下の場合は証人になれませんのでご注意ください。

  1. 未成年
  2. 推定相続人、受遺者(遺言により遺贈を受ける人)
  3. 推定相続人、受遺者の配偶者、直系血族
  4. 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、従業員

・保管

基本的には遺言書作成した本人の保管が良いと思います。

・秘密性

作成したのち、公証人役場へ証人2人以上と届出に行くため遺言の存在は秘密にはなりにくいが、遺言の内容自体は見せる必要がない為秘密にできる。

・紛失の可能性

原則、自分で保管ですので、保管場所を失念する等、紛失の可能性があります。(公証人役場には秘密証書遺言を作成したという事実のみの記録で原本はありません。)

・変造の可能性

あり

・検認

⇒必要

*家庭裁判所での検認手続きが必要となります。

・メリット

  1. 遺言書の内容を秘密のまま、存在を明らかに出来ます。
  2. 遺言書を偽装・変造されることが少ない。

・デメリット

  1. 他の方法に比べ、公証人役場への手数料や、証人依頼代等の費用がかかる。(公正証書遺言の作成費用は日本公証人連合会のHPをご参照ください。http://www.koshonin.gr.jp/index2.html
  2. 専門家による内容確認がないため、遺言書を作成する際に遺言の法律の要件を満たしていないと無効になります。
  3. 紛失の恐れがあります。

 4.遺言書の作成

4-1.文例

遺言書2

4-2.遺言書作成の必要書類

  1. 財産目録
  2. 被相続人と相続人の続柄が分かる戸籍謄本 →相続人の名前を書き間違えないため
  3. 被相続人の印鑑登録証明書        →実印が間違いないか確認するため
  4. 実印
  5. 財産を法定相続人以外の方に遺贈する場合、その方の住民票
  6. 相続財産に不動産がある場合、不動産の登記簿謄本と固定資産評価証明書等or固定資産税・都市計画税納税通知書の課税明細書
  7. 公証人がいる場合、証人になられる方の氏名、住所、生年月日、職業を事前に調べておく
  8. 自筆&秘密証書遺言の場合、丈夫な用紙、消せない筆記具、封筒

4-3.作成手順 

 遺言書4

 ※1 必要書類

  • 被相続人(遺言書を書かれたあなた)と相続人との続柄が分かる戸籍謄本
  • 被相続人の印鑑登録証明書
  • 財産を相続人以外に遺贈する場合は、その人の住民票
  • 不動産をお持ちの場合、不動産の登記簿謄本と固定資産評価証明書or固定資産税・都市計画税納税通知書の課税明細書

※2 2人以上なら可。

※3 証人となられる人の氏名、住所、生年月日、職業を事前に調べておく必要がある。

※4 聴覚・言語機能障害者は、手話通訳による申述、 または筆談により口授に代えることができます。

4-4.いつどのタイミングで作成する

遺言書の作成は民法において満15歳以上になればいつでも可能です。判断能力がなくなってしまうと遺言はできませんので、心身ともに元気なうちに作成することをお勧めします。そして考え方が変わった場合、財産状況や経済情勢などが大きく変わった場合、家族関係が変化した場合など諸状況の変化に応じて書き直しするといいでしょう。とはいえご自身が健全な状態だとなかなか作成に至らない方が多いようです。

4-5.誰に相談する

遺言書の内容は信頼できる方に相談して決められるかと思いますが、銀行担当者、それぞれの士業によってメリットが異なりますのでそれぞれ適した方に相談しましょう。また相談相手を決める際には遺言書の作成のみならず相続時についても考慮したほうがいいでしょう。

4-5-1.銀行担当者、信託銀行担当者

預貯金を預けている銀行で遺言書の作成のお手伝いをして頂ける遺言信託のしくみがあります。

管理手数料や執行報酬が他士業に比べかなり割高となっております。また遺言書が執行された後、また紛争が起きた場合には弁護士へ税務申告は税理士へとさらに別途費用が掛かるため、お勧めいたしません。

4-5-2.行政書士

行政書士は書類の作成、提出手続きの代理代行の専門家です。役所に提出書類や権利義務・事実証明に関する書類の作成業務を代わりに引き受けてもらえます。遺言書が執行された後、相続手続きにおいて法的紛争段階にある事案や、税務・登記申請業務に関するものをは関与できません。遺産分割の合意が整っている場合に確認書を作成する、遺留分撲滅請求の内容証明を送ってもらうことが出来ます。相続争いや申告業務がないが、遺言書を書きたいという方にお勧めいたします。

他士業に比べ気軽に相談できると思います。

 4-5.3.弁護士

弁護士は法律問題の専門家です。遺言書の作成の際、法律に基づいて他の相続人が遺産の分割方法に納得してくれ紛争にならないように相談に乗っていただけると思います。遺言書が執行された後、相続トラブルが生じることが予想される場合は、最初から弁護士に依頼するのが賢明です。弁護士であれば、裁判所の手続き全て行うことが出来ます。ただ弁護士も専門がありますので「相続を得意とした」弁護士さんにお願いするといいでしょう。

4-5-4.司法書士

司法書士は登記の専門家です。不動産を多く所有し、権利関係の整理が必要な場合、登記など法務局に対する手続きを代わって行います。また140万円以下の民事事件を取扱いできるため、相続時に争いとなる金額が140万円以下であれば相談できます。

4-5-5.税理士

税理士は税務の専門家です。確定申告や法人の顧問税理士はあなたの財産について一番よく把握しており、今後起こりうるであろうトラブルについても一緒に対応を考えることが出来る状況にあります。財産をお持ちの方、事業を行われている方は相続税についての相続シュミレーションをしたうえで遺言書を作成することをお勧めします。

色々メリットデメリットをあげましたが、「信頼がおける」相手に頼むことが大切です。士業は士業間で信頼した仲間と共に仕事をしていますのでどの窓口に入っても、相続時に裁判は弁護士、登記は司法書士、税務申告は税理士を紹介されます。遺言時には信頼できる士業に頼むことを一番にしていただけるといいと思います。

5.まとめ

いかがだったでしょうか。自分の意思を伝え、残されたものが争うことのないよう願っております。今これをお読みになっている時はまだ実際自分自身のことというよりは第三者の目線で読まれると思います。この視点を大切に実際に遺言書を書くことになった際は活かしていただきたいと思っています。

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